大阪地方裁判所 平成8年(ワ)8175号 判決 1999年1月26日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告らは原告に対し各自金五四〇万円及びこれに対する平成五年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告の向かい側に居宅を新築した施主及び建築会社に対して、悪性関節リウマチ等に罹患している原告の健康状態に配慮せず工事を継続したため、そう痒性皮疹等の健康被害を生じたなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。
一 基礎となる事実
1 原告は、病名を悪性関節リウマチとして特定疾病医療受給者証の交付を受けている者である。[甲第二二号証の二]
被告上條佳(以下、「被告上條」という)及び被告上條泰子(以下、右両名を指すときは「被告上條ら」という)は夫婦であって、原告肩書地と幅員約4.7メートルの道路を挟んだ南側の土地(大阪府羽曳野市西浦<番地略>宅地81.25平方メートル。以下「本件土地」という。)の共有者である。[甲第一八号証の一、第一九号証の一]
被告ミサワホーム近畿株式会社(以下「被告ミサワ」という)は、住宅の建築工事請負及び設計監理等を目的とする株式会社である。[弁論の全趣旨]
2 原告及び被告上條らは、相前後して昭和五五年ころから、それぞれ、原告肩書地及び本件土地上において居住を開始した。[争いがない事実及び弁論の全趣旨]
3 被告上條は、被告ミサワとの間で、本件土地上に存した二階建ての木造居宅を解体し三階建の木造居宅を新築する旨(以下「本件工事」という)の請負契約を締結して、平成五年八月八日には引越し、被告ミサワは、同年八月一八日に解体工事を開始した。[争いがない事実、第一八号証の二及び弁論の全趣旨]
4 原告と被告ミサワ従業員Hは、同年一〇月三日、左記の内容の合意書を取り交わした。[争いがない事実及び甲第二六号証]
記
(一) 原告は療養のためケアセンターを利用する。期間は同年一〇月四日から一〇月三〇日(日曜日は除く)、費用は全額被告ミサワの負担とする。
(二) 作業現場には仮囲いを設置する。
(三) 作業時間は午前八時から午後六時とする(片づけ等の時間は除く。)。
(四) 祭日は現場の段取り上、作業することがある。
(五) 作業終了後、前面道路に散水する。
5 被告ミサワは、同年一二月一三日、新築建物(大阪府羽曳野市西浦<番地略>、居宅・事務所・車庫、木造スレート葺三階建、一階48.02平方メートル、二階48.44平方メートル、三階45.54平方メートル。以下「本件建物」という)を完成させた。[争いがない事実及び甲第一八号証の四]
二 争点
1 被告らの行為の違法性及び原告の病状との因果関係
2 日照妨害の違法性
3 損害額
三 当事者の主張
1 原告の主張
(一) 事実経過
原告は、被告上條らが建物建替をすることを事前に聞いていなかったし、工事現場には工事の標識も建てられておらず、事前に建築業者を知らなかった。
原告は、平成五年八月八日午前九時、被告上條から解体に際してはシートで囲ってしまうから埃も出ないし、大きな音も出さない、などと説明を受けた。
同月一八日の解体工事開始時に、被告上條の説明に反しシートの囲いもなく、埃もひどかった。原告は、同日、顔や手首にかゆみを感じ、皮膚が赤く腫れ上がり、目頭、鼻、口びるがかゆく、のどがいがらっぽくなった。
原告は、同月二六日、そう痒性皮疹の診断を受けた。肝機能の検査においても数値が悪化していた。
原告は、同月二九日被告上條らに、さらに同年九月一六日に被告上條泰子に原告の被害を訴えたが、自分で気を付けてくださいといわれ、原告の苦情に十分に耳を傾けなかった。
そこで、原告は同月二二日から二四日まで、道後温泉病院において治療を受けた。
原告は、同月三〇日、ようやく被告上條からの説明により被告ミサワが工事業者であることを知ったが、工事予定などを事前に知らせるように申し出ていたにもかかわらず、被告らは何ら知らせることなく、同年一〇月一日新築建物の組立工事を開始し、大型車を原告方の玄関先まで乗り入れ、大きな振動と音を立てて杭を打ち始めた。
そうして、原告は、被告ミサワ従業員のHとの間で、同月三日、合意書を交わした。
さらに、原告に、同月一八日、持病のメニエール病の症状が出てきた。
その後も、原告は、被告ミサワに対し、合意書の内容に反し、前面は囲いがないのと同様になっていること、散水をしていないこと、時間も守られていないこと等の苦情を伝えたが改善されず、同年一一月九日羽曳野簡易裁判所に調停を申し立てたが、被告ミサワは、右調停中も合意書の内容に反する工事を継続した。
その結果、従前二階建ての建物であったのに三階建ての本件建物を完成させ、原告の日照を奪った。すなわち、原告は悪性関節リウマチによる歩行困難のため二階に上がることは不可能であり、慢性病に罹患している原告にとって日照が健康面でもたらす薬効は計り知れないにもかかわらず、原告の寝室がある一階東端は、冬至において午後〇時三〇分ころから午後三時三〇分ころまで三時間日影となってしまった。
(二) 被告らの責任及び因果関係
建築工事が騒音、振動、粉塵、日照など近隣に多様かつ多大な影響を及ぼすものであることは周知の事実であるが、工事建物に隣接する居住者は工事によって直接影響を受ける関係にあるから、施主及び工事業者は事前に個別面談し工事概要を説明して協力を求め、その近隣の居住者に病気や障害があり、日常生活において一般の健常者より特段の配慮を要する場合には、工事によって当該居住者に被害が発生しないような万全の対策をたてる義務があり、工事途中であっても、現に近隣の居住者から抗議があった場合は誠実に対応し、指摘された事実について確認し直ちに是正し、さらに具体的な被害が発生した場合は、原則として工事を中止して、直ちに原因究明と再発防止の対策を講じる義務があるというべきである。
原告は、既に指摘したように難病の慢性関節リウマチがあり、また同じく難病のメニエール病でもあり、さらにアレルギー体質である。被告ミサワは、請負った本件工事現場の近隣にこのような難病患者が居住していることは施主である被告上條らに確認するなど通常の調査によって知ることができたにも拘わらず、訪問調査すらしなかった。殊に被告ミサワは、その後工事方法、時間等について原告との間で作成した合意書があるにも関わらず、これに反して作業現場の仮囲いをせず、作業時間を遵守せず、粉塵が出ても散水をしなかった日もかなりみられた。
以上のとおり、被告らの近隣特に原告に対する損害防止義務を果たさなかった過失により、原告は前記の健康被害を被ったのであり不法行為責任を負う。
また、原告の服用する薬にはカルシウムの吸収を抑制する副作用があり日照の重要性はより高く、被告らは、原告から説明を受ければその理解ができたのに漫然と工事を進めた。
(三) 原告の損害
(1) 原告にそう痒性皮疹、肝機能障害、メニエール病などの症状を生じさせたことに対する精神的ないし肉体的損害 金三〇〇万円
(2) 日照を奪われたことに対する精神的ないし肉体的損害 金二〇〇万円
(3) 弁護士費用 金四〇万円
2 被告上條らの主張
(一) 事実経過
被告上條は、平成五年八月六日及び同月七日と本件建物建築工事の挨拶のために原告宅を訪れたが、原告は不在であった。そのため、同月八日に挨拶したが、この際には挨拶と一般的説明をしたにすぎず、シートで囲う等の説明はしていない。
(二) 被告上條らの責任及び因果関係
本件の解体及び新築工事に伴う騒音、埃塵が受忍限度の範囲内であることは明らかである。
また、原告主張の症状と本件各工事との間に因果関係もない。
3 被告ミサワの主張
(一) 事実経過
平成五年八月一八日の工事の開始時には、畳、建具の搬出が主たる作業で特に埃も出なかったことから、シートの囲いがされていなかった事実はあるが、被告ミサワは、この当時原告の身体的症状を知らなかった。
本件建物新築工事着工前までは現場に標識を立てておらず、原告が九月三〇日ころの被告上條の説明により被告ミサワが施工することを知ったことは認めるが、工事車両は通常二トン車で最大でも四トン車であるし、本件建物の杭うち作業もあり得ない。被告ミサワは着工前たびたび原告宅を訪れたが人の気配はあるものの、常に応答はなかったものである。
(二) 被告ミサワの責任
被告ミサワの本件建物新築工事は、内容、方法ともに適法にして適正、妥当なものである。工事音も騒音といえるものではなく、埃も道路を隔てた原告宅に特段の影響はなく、受忍限度をはるかに下回るものである。
仮に原告に主張の症状があったとしても、因果関係がない。
また、被告ミサワは、ケアセンター利用料金を負担してもわずかの費用負担で工事を円滑に進めることができることが有益と判断し、最大限の譲歩もしている。
第三 争点に対する判断
一 甲第一ないし第九、第二一ないし第二四、第二七ないし第三一、第三六号証の一、二、第三八号証の一、二、第四一ないし四四、第四六号証、第五二、第五三、検甲第一ないし第五三、乙第一ないし第七、第九、第一〇号証の一ないし三、第一二、第一三、検乙第一、第二号証、丙第一号証、原告本人の供述、証人Hの証言及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
1 原告は、看護婦と助産婦の資格を有し、いくつかの病院において分娩介助の仕事をしていたが、昭和三五年、流産をきっかけに、右示指の腫脹、発赤、疼痛等を症状とする慢性関節リウマチ(病名は後に悪性関節リウマチとして難病指定されている。)を発病した。
リウマチは、圧倒的に女性に多く、自己免疫疾患から発病するともいわれるがそもそもの原因は不明で、発病も過労気味が機縁となることがあり、関節などに激しい痛みを伴い、その治癒は難しいうえ、発病後次第に関節の破壊変形などが生じ日常生活上の動作が次第に不自由となっていくことが多い病気であって、社会的に十分な理解を得ているとは言い難い。
原告においても、昭和三七年の長男出産を期に、慢性関節リウマチは全身の関節に広がって悪化し、大阪府立羽曳野病院を始め、リウマチの専門医のいる道後温泉病院等に入退院を繰り返し、平成三年には両上肢機能障害二級及び両下肢機能障害二級により障害等級一級の認定を受けるまでに悪化し、入退院回数は本件工事までの間に合計約一〇回を数えるに至った。そして、本件工事当時には既に車椅子を使用し、頸椎を固定する器具などを使用したこともあり、その生活をみれば身体に障害があることは見て取れる状態であった。
さらに、原告は、平成四年三月から五月にかけて、羽曳野病院に入院中にメニエール病を発病した。
メニエール病とは、内耳を形成する前庭器官と蝸牛を満たす内耳液のうち内リンパ液が異常に増え外リンパ液と分けているライスネル膜を押し広げるという内リンパ水腫を原因とし、回転性めまい、難聴、耳鳴りを大きな兆候とする厚生省の難病指定を受けている病気であって、原告は、音に敏感で、少し大きな音がするだけでも神経がぴりぴりする症状が現れるようになっていった。
2 本件土地上の旧建物の解体工事に先立ち、被告ミサワの担当者は、工期、施工者、連絡先等を書いた定型書式による挨拶状を持ち、周辺住民へ事前に工事をする旨を伝えており、留守宅には挨拶状と担当者の名刺を郵便受けに入れる処置をとった。
そして解体工事は、平成五年八月一八日から行われ、この時には工事の概要等を記載した標識を本件土地に設置することはなかったが、作業は建物内部の畳、建具等の搬出を行った後、住宅地であったことから騒音防止のため基本的に手ばらし作業で行われ、機械作業をしたのは解体工事の終わるころの八月二二日に建物の基礎を解体するためにユンボを使用しただけであった。そして、粉塵の飛散防止のために建物や前面道路に水をかけながら作業を行った(この間の水道料金は同年九月九日に四六八〇円、同年一一月九日に一四〇〇円であった)。
原告は、平成五年四月二日から同年七月三日まで、関節激痛、発熱、腫脹で道後温泉病院に入院し、その後自宅療養中であったが、解体工事の始まった同年八月一八日ころより顔、手首にそう痒性皮疹が出始め、九月九日には顔面の頬部に淡紅色斑がみられ、九月二一日に道後温泉病院を受診した際には、顔、前腕にかゆみの強い紅斑がみられた。そして、原告は、九月二二日には道後温泉病院を外来受診し、その顔面等の身体の露出部分の痂皮形成を伴う増殖性の皮膚病変があったが、その原因はアレルギー性のものがベースになると考えられた(なお、原告には昭和六一年一〇月一日の皮内テストにおいて、ハウスダスト、ブタクサ花粉、カモガヤ花粉、スギ花粉、ビール、猫毛などに陽性反応があった。)。そして原告は、精神的に不安定な状態となっており、道後温泉病院の病室にも空室があったが、同月二四日には帰宅した。
3 原告は、九月三〇日ころ被告上條の説明で初めて被告ミサワが施工業者であると知った。被告ミサワは、一〇月一日、本件建物新築工事を開始したが、原告からこれ以前の解体工事を含めた工事について苦情があったことから、原告と被告ミサワの直施工部第二課課長のHらが翌二日に話し合い、原告からケアハウスに入りたいとの希望があったため、音や埃がでるとすれば外壁サイディング工事期間中(一〇月末まで)と考えられたため、この期間の一時的な避難先として、被告ミサワが右ケアハウスの料金を負担することとし、同月三日には合意書を原告に交付した。
そして、原告は、ケアハウスの送迎車等で同月四日、五日、八日、九日、一一日、一二日、一四日ないし一六日、一八日、一九日、二二日、二三日とケアハウスを利用したが、入所者に痴呆老人が多く、昼食が離乳食様で、玄関も施錠されるなど軟禁されているとも感じ居心地が必ずしもよくなかったため利用しなくなった。そこで、被告ミサワの調査部所属の者が、別途、原告が工事中に一時入所できる施設を探したが、原告が納得するような施設は見つからず、同年一一月になっても、被告ミサワが、サンヒル柏原という施設があることを紹介したが、結局、空き部屋がなく原告の入所はかなわなかった。なお、被告ミサワは、一〇月一三日、工事標識をようやく立てるに至った。
4 本件建物の建築は、基本的に工場で加工された部材を現場で組み立てる作業となっており、現場において部材を加工して工事をする在来工法に比し騒音や埃の発生は少ない工法であったが、右のとおり原告からの苦情申立てがあったことから、被告ミサワは、現場の作業員に対して、より一層の注意を払うように指導した。
それでも外壁材は石綿を主原料にできており、現場において、調整のため電動ノコギリによりそれを切る必要があったが、電動ノコギリについている集じん袋により相当程度は集められるように工夫はされている。
5 原告と被告ミサワの話し合いはその後も、一〇月七日、一八日、二八日、一一月一日、四日、八日と続けられ、この間、被告ミサワは、原告の利用した費用について、同年一〇月七日にビール券二〇枚(一万四〇〇〇円)、さらに一一月一日及び同月四日の飲食代金(計九〇〇〇円足らず)、清掃用品(五〇〇〇円余り)などの費用負担をし、工事が円滑に進められるように配慮した。
6 原告は、一一月一七日現在、慢性関節リウマチのみならず、湿疹、薬剤アレルギーにより羽曳野病院において治療していたが、そうこうしている内に、同年一二月一三日、本件建物が完成した。しかし、解体工事期間中を含め、被告ミサワに対して苦情を言った者は原告以外なかった。
三 争点に対する判断
1 思うに、建物の解体を含む建築工事が一定量の騒音、振動、粉塵等を周囲に飛散することは原告主張のとおりであり、それが工事期間中は近隣に対する迷惑行為となること自体は否定できない。しかし、相隣関係から導かれる原理においても、加害行為の態様と被侵害利益の性質等を考慮し、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として社会的に受忍すべき範囲の騒音、粉塵等の飛散は社会生活上相互にやむを得ないものとして受忍すべきものであり、そのような受忍限度を超えた騒音、振動、粉塵等を飛散させた場合は、他人の権利侵害として違法性を肯認できるというべきである。けだし、大規模な建築工事と異なり、一般国民が生活の本拠である自宅建物を通常の規模、方法で改築、新築する行為は、国民相互がいずれは遭遇する社会生活の基本的営みであって、これをもし否定すれば、一般国民の基本的生活自体が成立しないことは自明であるからである。
これを本件についてみた場合、木造の旧家屋の解体(手ばらし解体、粉塵予防の水撤き)と、基本的工程が工場で生産された規格部材での現地での組立という新築工事の態様を考えれば、それが通常の居宅の工事規模、内容等を超え、受忍限度を超えた騒音、振動、粉塵等を飛散したものとは到底認め難いというほかない(隣家やその他の近隣から被告ミサワに対して苦情がみられなかった事実も、それが通常人の感覚ないし感受性を基準にした場合、受忍限度として忍んだことを端的に示している。)。原告は、本件のような一般民家の建築工事に際しても、施主あるいは工事業者は事前に近隣居住者と個別に面談して工事概要を説明し、病人や障害者の有無を調査して個別に被害が発生しないようにする義務があると主張するが、本件工事の規模、内容等からして、当否の問題は別論としても、これを事前になすべき法的な義務として負担させることはできない。
もっとも、通常の民家の工事であっても、前記のように影響の及ぶ範囲の居住者に配慮されるべき病者、障害者があり、工事による症状の悪化や生活妨害を招来することが明らかとなった場合は、当該工事の技術的、経済的に可能な工事方法、時間等に最大限配慮して被害の発生を未然に防止すべきことは原告主張のとおりであるが、本件では、仮に、被告上條ら、同ミサワが、原告が難病に指定された悪性関節リウマチ等で長年闘病し、退院直後の自宅療養中であることを知っていたとしても、右難病とそう痒性皮疹との因果関係は明らかではなく本件工事により原告にそう痒性皮疹が発症することを予測するのはきわめて困難であったというべきである(なお、原告に肝機能障害が生じたとの客観的証拠は存しないし、メニエール病の発症をみたとしても本件工事との因果関係は不明である。)。さらに、被告ミサワは、原告からの訴えを容れて工事関する合意書を交わした後は、工事方法や、結果的にはかえって原告に心身の負担を生じさせたが一時的避難先としてのケアハウスの世話をするなどの配慮をしながら工事を続行しており、これら事情を考慮すれば、本件工事は、当時なし得べき被害防止措置を施してなされたものと考えるのが相当である。
なお、被告ミサワが工事標識を掲げたのが新築工事が始まって一〇日以上も経ってからであることは原告が自己防衛措置を採るために否定的材料であったことは原告主張のとおりであるが、これも被告ミサワの法的責任の有無を左右するものではないし、原告主張の、被告上條らが解体工事前にシートで建物全体を覆って解体すると説明したとの点も、仮にあったとしても工法等につき素人である当事者同士の会話であって、右判断を左右するものではない。
2 また、日照の点も、乙第一五号証の一、二によれば、本件土地は第一種中高層住宅専用地域であって、その地域の日影規制は、建物の高さが一〇メートルを超える場合に、平均地盤面から四メートルの水平面において敷地境界線からの距離が五メートルないし一〇メートルの範囲で四時間未満、同一〇メートル以上の範囲で2.5時間の規制となっていることが認められる。
そして、甲第一九号証の一、第三七号証及び乙第一五号証の一によれば、本件建物は高さが最高9.474メートルであり、本件土地と原告所有地との間の道路の幅員が4.7メートルと住宅地として十分な幅を有し、しかも本件建物は道路との境界線から三メートル近く下がった形で建てられているため、本件建物によってできる日影時間は、地盤面から五〇センチメートルにおける日照時間でも原告宅内の一地点において日影時間は一時間二七分に止まることが認められ、地盤面からの測定距離及び日影となる時間の両面から考えると、本件建物の建築による日照の減少が受忍限度を超えるとは言い難い。このことは仮に、原告が、両上肢、両下肢に機能障害があって二階での生活が困難であり一階における生活において日照時間確保の必要性があるなどの点を最大限考慮してもなお、判断が異なるものではない。
3 以上から、その他の点について判断するまでもなく、原告の請求は失当であるから棄却することとして、主文のとおり判決する。